がん細胞でDNA修復能を増強する新因子【Medical Tribune】

生殖細胞関連蛋白質SYCE2

 DNA修復能の異常はがんの代表的な特徴であるが、どのような機序でその異常が引き起こされているかについては、まだ十分に明らかにされていない。東京大学大学院疾患生命工学センター放射線分子医学部門の細谷紀子氏らは、がん細胞で増殖する生殖細胞関連蛋白質SYCE2が、がん細胞の細胞核内環境を変化させてDNA修復能を増強させることを発見し、Life Sci Alliance(2018年6月22日オンライン版)に発表した。

がん精巣抗原に着目

 細胞内ではさまざまな原因によってDNAに損傷が生じるが、細胞はDNAを修復する能力を備えている。DNAの損傷は老化や疾患の原因になると考えられており、がんについてもDNAの異常により引き起こされるという。DNA修復能の異常が遺伝性の乳がんや卵巣がんの発症に関連することが分かり、その後、その他のがんにおいてもこの異常が高頻度で見られることが知られるようになった。

 がん治療の目標は、正常細胞にできるだけ損傷を与えずにがん細胞のみを殺すことであるため、正常細胞には見られないがん細胞のDNA修復能の特性を捉え、治療戦略に生かすことが重要となる。細谷氏らは近年、生殖細胞で増殖する「がん精巣抗原」と呼ばれる蛋白質群の存在に着目し、これらの蛋白質のがん細胞での作用について研究を進めてきた。

体細胞的な役割を果たす

 細谷氏らは先行研究で、生殖細胞関連蛋白質でがん精巣抗原でもあるSYCP3がDNA二本鎖切断の修復を阻害することを発見している。今回同氏らは、別の生殖細胞関連蛋白質であるSYCE2のがんにおける作用について調べた。SYCE2は正常細胞にはほとんど存在しないが、血液がん、乳がんをはじめとするさまざまながん細胞で増殖しており、がん精巣抗原であることが分かった。

 SYCE2は生殖細胞関連蛋白質であるが、核機能に影響を及ぼすことによって体細胞的な役割を果たす可能性があると考えられていた。今回の研究において、SYCE2は外因性のDNA損傷がなくても二本鎖切断の修復活性を増強し、発現レベルが低くても、遍在的に体細胞的な役割を果たすことが観察された。さらに、SYCE2は放射線やシスプラチンへの抵抗性を引き起こすことも分かった。

新たな治療概念の構築につながる

 がん精巣抗原は正常体細胞には存在せず、がん細胞で増殖することから、がん免疫療法の治療標的として有望視されていた。今回の研究では、SYCE2の生殖における作用だけでなく、がん細胞における作用が初めて示された。新たながん治療への応用につながることが期待される。

 今回のSYCE2のように、細胞のDNA修復能を変化させる機序が分かれば、SYCE2が増加しているがん細胞においてSYCE2を阻害することで放射線や抗がん薬による治療効果を高めるなど、DNA修復能の特性に基づいた新たな治療戦略の構築につながるものと思われる。また、SYCE2を標的としたがん免疫療法と他の治療法との組み合わせに関する原理の解明につながることも期待されている。

(慶野 永)

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