再発膠芽腫に対してウイルス療法が有望

 再発膠芽腫(グリオブラストーマ)患者の予後は極めて不良で、診断後の平均生存期間は1年に満たないことが報告されている。こうした中、再発膠芽腫に対する遺伝子組み換えポリオウイルスワクチン(PVSRIPO)投与の安全性を検証した第Ⅰ相試験で有望な成績が得られたと、米・Duke University Medical CenterのAnnick Desjardins氏らがN Engl J Med2018; 379: 150-161)で報告した。再発膠芽腫患者61例を対象とした同試験ではPVSRIPOの神経毒性は認められず、24カ月後および36カ月後の全生存率はヒストリカルコントロール群で経時的に低下していたのに対し、PVSRIPO群ではいずれの時点でもプラトーに達していたという。

カテーテルで腫瘍内に直接注入

 神経膠腫(グリオーマ)の中でも世界保健機関(WHO)グレードⅣと最も悪性度が高い膠芽腫は、積極的な治療を行っても診断後の生存期間は20カ月に満たないと報告されており、生存期間は12カ月未満とさらに短い。そのため、手術や放射線治療、化学療法、分子標的薬を用いた治療成績の向上を目的に研究が重ねられてきた。しかし、これらの研究では一貫した生存期間の延長は認められず、毒性が問題となることも多かった。

 Desjardins氏らは今回、再発膠芽腫患者に対する遺伝子組み換えポリオウイルスワクチンPVSRIPOを用いた治療の安全性を検証し、適切な投与量を明らかにする目的で第Ⅰ相試験を実施した。

 PVSRIPOは、弱毒生ポリオウイルス1型ワクチンをベースに配列内リボソーム進入部位(IRES)をヒトライノウイルス2型のものと置き換えた腫瘍溶解性ウイルスワクチンで、ほとんどの固形がんの腫瘍細胞に発現するポリオウイルスの受容体であるCD155を認識する。脳内にカテーテルを留置し、Convection enhanced delivery (CED)法〔小型ポンプから持続陽圧下に薬剤を少量ずつ脳細胞間隙に局所注入する方法〕を用いて、PVSRIPOを血液脳関門(BBB)を通過して腫瘍内に送達させた。

 今回、2012年5月~17年5月にWHOグレードIVの再発悪性神経膠腫を有する18歳以上の成人患者61例を組み入れた(PVSRIPO群)。腫瘍は病理組織学的検査で確認、造影検査で腫瘍の最大径が1cm以上5.5cm以下のものと定義した。また、プラセボ投与には倫理的な問題があるとの考えから、今回の組み入れ基準を満たし、過去に同施設で治療を受けた症例群をヒストリカルコントロール群とした。

 PVSRIPOの用量は50%組織培養感染量TCID50法で評価したウイルス量が107~1010の範囲内で7段階に設定。用量漸増フェーズではレベル1(108 TCID50)~レベル5(1010 TCID50)の5段階のうち、レベル1~3を各1例ずつ、レベル4を2例、レベル5を4例に投与し、評価した。用量拡大フェーズでは徐々にレベル2(3.3×108 TCID50)からレベル-1(5.0×107 TCID50)に減量し、さらにレベル-2(107 TCID50)まで減量し、レベル2を6例、レベル-1を31例、レベル-2を15例に投与し、評価した。

生存期間60カ月超の患者も3例

 その結果、PVSRIPOを最大用量(レベル5)投与した患者において、カテーテルを抜去した直後にグレード4の頭蓋内出血が発生した。これに対して緊急手術が行われたが、片麻痺と失語症が残った。出血した部位から採取された組織の病理学的な解析では、PVSRIPO投与に関連した血管の変化やウイルス活性、炎症性のイベントは認められなかった。

 また、PVSRIPO群の69%で用量拡大フェーズにPVSRIPO投与に関連したグレード1~2の有害事象が発生した。発生率が20%を超えていた有害事象は、頭痛(52%)、錐体路症候群(50%)、てんかん発作(45%)、失語症(28%)、認知障害(25%)だった。

 有効性に関しては、全生存期間(中央値)はPVSRIPO群で12.5カ月(95%CI 9.9~15.2カ月)、ヒストリカルコントロール群で11.3カ月(同9.8~12.5カ月)だった。しかし、PVSRIPO群の全生存率は24カ月後と36カ月後のいずれの時点においても21%と、24カ月後からプラトーに達していた。これに対し、ヒストリカルコントロール群では24カ月時の14%から36カ月時には4%に低下していた。また、PVSRIPO群では生存期間が70カ月を超えた患者が2例、60カ月を超えた患者が1例認められた。

 今回の結果を踏まえ、Desjardins氏らは「全61例に対し、予定通りPVSRIPOを腫瘍内に注入することができた。ウイルスによる神経毒性は認められなかった」と説明。また、「今回の試験で頭蓋内の腫瘍に安全に投与できるPVSRIPOの用量を明らかにすることができた」と述べている。

他のがん種でも期待

 なお、今回の臨床試験を実施したDuke UniversityのグループにはPVSRIPOの特許を保有する研究者が含まれている。同大学とPVSRIPOのライセンス契約を締結しているバイオテクノロジー企業のIstari Oncologyは、6月26日付のプレスリリースで、現在、成人膠芽腫患者を対象としたPVSRIPO単独療法または化学療法との併用療法の有効性を検証するための多施設共同第Ⅱ相試験や、小児再発膠芽腫患者を対象とした第Ⅰ相試験が進行中であることを明らかにしている。また、乳がんおよびメラノーマ患者を対象としたPVSRIPO単独療法または免疫チェックポイント阻害薬を含む他の治療薬との併用療法を検討する第Ⅰ相試験も計画中だという。

 研究グループの1人で同大学脳神経外科学のHenry S. Friedman氏は「一般的に生存期間が1年未満となる場合が多い再発膠芽腫患者の治療において、これまでに報告された臨床試験の中で最も優れた成績だといえる」とコメント。「PVSRIPOが認識するCD155 はほとんどの固形がんで発現する受容体であるため、今後は膠芽腫だけでなく他のがんについても臨床試験の実施が望まれる」と期待を寄せている。

(岬りり子)

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