高齢のHER2陽性乳がんにはトラスツズマブ単剤も考慮を

術後補助療法としてのトラスツズマブ単剤 vs. トラスツズマブ+化学療法:RESPECT

 HER2陽性の高齢者原発性乳がんに対する術後補助療法として、トラスツズマブ単独療法(Herceptin®; H群)をトラスツズマブと化学療法の併用(H+CT群)とランダム化比較したRESPECT試験から、トラスツズマブ単独療法は選択肢となりうることが示された。主要評価項目の3年無病生存期間 (DFS)は、H群89.2%、H+CT群94.8%、化学療法を省略することで失われる境界付き平均生存時間(restricted mean survival time;RMST)は3年の時点で1カ月未満となり、毒性とQOLでもトラスツズマブ単独療法が優れていた。愛知県がんセンター中央病院乳腺科部医長の澤木正孝氏が米国臨床腫瘍学会(ASCO 2018、6月1~5日、シカゴ)で報告した。

術後に化学療法を行わずにトラスツズマブを単独投与できないか

 乳がんの術後補助療法として、化学療法を行わずにトラスツズマブを単独で投与することについては、ベネフィットの検討が行われていない。そのため化学療法を行えない場合、トラスツズマブ治療の機会を逸してしまう。化学療法による毒性を伴うことなくトラスツズマブのベネフィットを示すことができれば、臨床的に大きな意義があり、特に高齢者では重要な知見となる。

 RESPECT試験は、高齢の乳がん患者に対する術後補助療法として、トラスツズマブと化学療法の併用との比較において、トラスツズマブ単独療法の相対的価値を検討することを目的として行われた。

化学療法を省略しても境界付き平均生存時間の差は3年で1カ月未満

 対象は、HER2陽性の浸潤性乳がんで、病期はI期(pT>0.5cm)、ⅡA期、ⅡB期、ⅢA期のいずれかで、根治手術が行われた70歳以上81歳未満(登録時)の女性患者とされた。患者は、H群、またはH+CT群に、1対1の割合でランダムに割り付けられた。

 化学療法は、担当医師の判断および患者の希望に基づき、規定のレジメンであるパクリタキセル(PTX)、ドセタキセル(DTX)、ドキソルビシン+シクロホスファミド(AC)、エピルビシン+シクロホスファミド(EC)、フルオロウラシル+エピルビシン+シクロホスファミド(FEC)、シクロホスファミド+メトトレキサート+フルオロウラシル(CMF)、ドセタキセル+シクロホスファミド(TC)、ドセタキセル+カルボプラチン+トラスツズマブ(TCbH)から選択した。化学療法終了後にトラスツズマブの投与を開始する順次併用としたが、PTX、DTX、CMFではトラスツズマブと同時期に投与を開始する同時併用も許容した。

 主要評価項目はDFS、副次評価項目は全生存期間(OS)、無再発生存期間(RFS)、有害事象、健康関連QOL(HRQOL)などだった。盲検下で行われた中間解析において、イベント発生数が予測より少なく、DFSのハザード比に基づく非劣性試験として統計学的な検出力が確保できないことが示されたため、生存期間型対応の評価指標であるRMSTを算出し、トラスツズマブの相対的なベネフィットを解釈するための補足的な評価項目とした。

 2009年10月~14年10月に275例がランダム化割り付けに進み、このうち266例が最大の解析対象集団(FAS)となった。年齢中央値は73.5歳、病期はⅠ期が43.6%、ⅡA期が41.7%、ⅡB期が13.5%、ⅢA期が1.1%だった。H群135例、H+CT群131例となり、両群の患者背景に有意差はなかった。追跡期間中央値は3.52年だった。

 予定された解析の結果、DFSのイベントは、3年の時点においてH群で18件、H+CT群で12件に発生し、無病生存率はH群89.2%、H+CT群94.8%となり、ハザード比は1.42(95%CI 0.68~2.95、P=0.35)となった()。

図.無病生存期間(266例)

(澤木正孝氏提供)

 両群間のRMSTの差は、3年の時点で-0.45カ月(95%CI -1.71~0.80カ月)となった。

 RFSのイベントは、3年の時点においてH群で13件、死亡は5件発生し、H+CT群ではそれぞれ9件と4件発生、無再発生存率はH群91.7%、H+CT群95.6%となった。

 グレード3/4の血液毒性は、H群では認められず、H+CT群の16.8%に認められた。グレード3/4の非血液毒性は、H群の11.9%、H+CT群の29.8%に認められた(P=0.0003)。H+CT群で多く観察されたグレード3/4の有害事象は、高血圧(6.9%)、疲労感(6.9%)、食欲不振(6.1%)などで、H群ではそれぞれ3.7%、0.7%、0%だった。

 がん患者に特異的なQOLの尺度であるFACT-Gでは、臨床的に意義のある改善(5点以上)は、12カ月の時点でH群の42.9%、H+CT群の25.3%で認められた(P=0.021)。一方で悪化は、12カ月の時点でH群の19.0%、H+CT群の38.0%で認められた(P=0.009)。

(編集部)

澤木正孝氏のコメント

予後の差と副作用・QOLの差を天秤にかけて選択を

 トラスツズマブと化学療法の併用は標準治療であり、高齢のため化学療法を行わないことを検討する場合には、トラスツズマブ単剤を選択肢として提示し、本研究で判明した予後の差と副作用・QOLの差を天秤にかけて、最終的に本人に望ましい治療を選択することになろう。