遺伝性乳がんに国内初の治療薬オラパリブ

 PARP阻害薬オラパリブ(商品名リムパーザ)が国内初の遺伝性乳がんの治療薬として、7月2日に承認(適応追加)を取得した。愛知県がんセンター中央病院乳腺科部長の岩田広治氏は、7月30日に東京都で開催されたアストラゼネカ主催のメディアセミナーで講演し、「オラパリブが乳がん治療に登場したことは、治療体系自体が変わる原動力になりうる。BRCA遺伝子変異陽性かつHER2陰性の手術不能・再発乳がん患者が、長生きできる機会が増えた」と期待感を示した。

 

PFSを有意に延長、高い腫瘍縮小効果を示す

 国内では年間推計8万人が乳がんと診断される。このうち5~10%が遺伝性乳がんであり、オラパリブの投与対象となるのは、生まれつきBRCA1BRCA2というがん抑制遺伝子に変異のある乳がん患者の一部だ。BRCA1BRCA2の変異は性に関係なく、50%の確率で親から子に引き継がれる。変異があると乳がんになりやすく、50歳までの罹患リスクは33~50%との報告もある。従来、この遺伝子変異を特異的に標的とする治療法はなく、アンメット・メディカルニーズが存在していた。

 オラパリブが承認される根拠となったのは、国際共同第Ⅲ相試験OlympiAD(関連記事:「PARP阻害薬で一次治療転移乳がんのOS改善」)。同試験は、生殖細胞系BRCA1またはBRCA2遺伝子変異を有するHER2陰性転移性乳がん患者を対象に行われた。オラパリブによる単剤治療の有効性を検証するため、オラパリブまたは標準単剤化学療法(カペシタビン、エリブリンまたはビノレルビンのいずれかを医師が選択)に2:1で割り付けた。試験には302例が登録され、化学療法群は97例、オラパリブ群は205例に投薬された。対象となった患者集団において、ホルモン受容体陽性(ER+および/またはPgR+)、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)の割合は1:1だった。

 両群を比較した結果、主要評価項目である無増悪生存期間(PFS)は、化学療法群4.2カ月、オラパリブ群7.0カ月で統計学的に有意に延長した〔ハザード比(HR)0.58、95%CI 0.43~0.80、P<0.001、図1〕。また、オラパリブ群は化学療法群に比べて、二次進行または死亡までの期間(PFS2)が3.9カ月改善した(同0.57、0.40~0.83、P=0.0033)。
 さらに、PFSを投与後6カ月、1年に区切って解析したとろ、投与1年時点では患者の25.9%で腫瘍が縮小、または安定した状態(PFS free)だった。このことを踏まえ、岩田氏は「オラパリブの投与により、約4分の1の症例では1年経過後も腫瘍が増大せずに安定した状態を維持できる」と述べた。

図1. PFS:OlympiAD試験

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ホルモン受容体陽性、TNBCともに有効性示す

 一方、ホルモン受容体陽性とTNBCの2つのサブタイプでPFSを比較したところ、ホルモン受容体陽性乳がんでは化学療法群5.1カ月、オラパリブ群8.3カ月(HR 0.82、95%CI 0.55~1.26)、TNBCでは化学療法群2.9カ月、オラパリブ群5.6カ月(同0.43、0.29~0.63)であった。TNBCでPFSが短かった理由について、岩田氏は「このタイプの乳がんは薬剤の効果が得られにくいという背景がある。ただ、HRを見ると、TNBCに対しては、オラパリブのパワーが強く、ホルモン受容体陽性乳がんでは少し弱かった」としつつ、「両タイプの乳がんともに、化学療法群に比べオラパリブ群で腫瘍が増大するまでの期間が延長した」とコメントした。

 全奏効率(OR)は、化学療法群29%、オラパリブ群60%と2倍だった。このうち完全奏効率(CR)は化学療法群2%、オラパリブ群9%であり、同氏は「オラパリブは腫瘍を縮小させる効果、消失させる効果ともに高い薬剤である」と評価した。

転移・再発した時点でオラパリブの早期使用を

 一方、副次評価項目である全生存期間(OS)については、両群間に統計学的な有意差はなかった(化学療法群17.1カ月、オラパリブ群19.3カ月、HR 0.90)。
 だが、化学療法歴のなかった転移・再発乳がん患者では、OSの中央値は化学療法群14.7カ月、オラパリブ群22.6カ月(HR 0.51、95%CI 0.29~0.90、P=0.02)と、7.9カ月の大きな差が見られた(図2)。
 これらの結果を踏まえて、岩田氏は「化学療法群に比べてオラパリブ群の方が長く生存しており、転移・再発した時点で、早期にオラパリブを投与することにより、生存期間が長くなる可能性が示唆された」と考察した。

図2. OSのサブグループ解析:OlympiAD試験

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注意すべき有害事象は貧血

 重篤な有害事象(グレード3以上)を見ると、化学療法群49.5%、オラパリブ群38.0%。また、治療を中止せざるをえない有害事象の割合はそれぞれ7.7% vs. 4.9%で、オラパリブ群の方が低率だった。ただ、減量が必要または治療を遅らせた患者の割合は、オラパリブ群でやや多い傾向が見られた。
 岩田氏は、2%以上の患者で発現した重篤な有害事象について、オラパリブで注意すべきものとして貧血を挙げた。白血球減少や好中球減少は他の有害事象に比べて多かったが、化学療法群よりも頻度は低かった。これらを踏まえ、同氏は「オラパリブを使用する際は、貧血に気を付ける必要があるが許容できる範囲内であった。その他の有害事象は、化学療法の方が感覚的にも多いという印象だ」と述べた。

遺伝子検査で陽性なら家族の心理的ケアも必要に

 オラパリブを投与する際には、BRCA変異の有無を判定する遺伝子検査(BRACAnalysis診断システム)を受けることが前提となる。BRCAの変異があればオラパリブを使えるが、一方で、例えば娘など血縁者にも同様の遺伝子変異を持つ可能性も出てくる。変異がある者では、一般集団に比べて将来的に乳がんを発症するリスクが5~6割高くなるため、家族への影響という心理的な葛藤や負担を抱えることになる。

 そこで重要となるのが、臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが行う遺伝カウンセリングによる患者や家族への心理的ケアである。この点について、岩田氏は「オラパリブを使う場合、あくまで主治医が患者に遺伝子検査の事前説明をした上で、インフォームド・コンセントを得て検査を実施するという流れになる。遺伝専門医や遺伝カウンセラーからカウンセリングを受けることは必須とされていない」と解説。
 ただし、同検査で陽性だった患者に関しては、別の対応が必要になるとした。同氏は「陽性だった場合には、患者自身だけでなく、血縁者にもなんらかの影響が及ぶため、遺伝専門医や遺伝カウンセラーのカウンセリングを受けることが必須。主治医と遺伝専門医などがきちんと連携を取ることが大切で、遺伝専門医がいない医療機関で遺伝子検査を受ける場合には、検査を行う前に連携体制を構築することが大前提となる」と強調した。

遺伝子検査はミリアド社製のものを

 遺伝子検査の対象となる患者については、「米国のNCCNの乳がんガイドラインでは、転移・再発乳がんで単剤治療の対象となるHER2陰性乳がん患者は、全員がBRCA遺伝子の変異の有無を調べる検査の対象となる、との記載がある。また、これらの患者に対する早期の遺伝子検査の実施は世界的にも推奨されている」と説明した。
 一方で、遺伝子検査に用いるコンパニオン診断薬「BRACAnalysis診断システム」については、米・ミリアド社が承認を取得し、保険適用されているが、国内では同社以外の遺伝子検査を受けている人もいるとの報告がある。岩田氏はこの事実を認めた上で、「ミリアド社以外の遺伝子検査で陽性であっても、オラパリブを使用することはできない。オラパリブの治療を受けるためには、再度、ミリアド社の遺伝子検査を受け直してもらうことが必要となる」と注意を促した。

 アストラゼネカによると、転移・再発乳がんと新たに診断される患者は、国内で年間1万人。このうちHER2陰性の患者は、オラパリブ適応の可否を調べる遺伝子検査を受ける可能性があり、年間最大9,000人が対象になるという。

 では、遺伝子検査が陽性だった場合、どのタイミングでオラパリブを使用するのか。OlympiAD試験の結果を踏まえ、同氏は「転移・再発乳がんの患者には遺伝子検査を行い、BRCA遺伝子に変異があれば、なるべく早期にオラパリブ投与を開始することが患者のベネフィットにつながる」との考えを述べた。

(小沼紀子)

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