乳がん患者の治療戦略にACPの活用を

患者の就労希望が明らかに

 がん研究会有明病院(東京都)乳腺内科では、転移・再発乳がん患者が納得して自身の治療を全うできるよう、Advance Care Planning(ACP)を導入している。ACPにより患者の就労希望が明確になり、治療戦略の構築に役立っている状況について、同科医長の小林心氏が第16回日本臨床腫瘍学会(JSMO 2018、7月19~21日)で発表した。

ACPは患者の希望を明らかにして共有するプロセス

 さまざまな薬剤の開発により、転移・再発乳がんの5年生存率は著しく上昇している。小林氏らの検討でも、生存期間中央値は55.5カ月、約4年半に及ぶことが示された(Surg Today 2016; 46: 821-826)。

 転移・再発乳がんの治癒は困難であるため、生存中は延命、症状のコントロール、QOLの向上を目的として治療を続けることになる。ただし、治療においては経済的な負担がQOLを悪化させること、経済的に余裕がないと痛みを感じやすく、症状も強くなることなどが報告されている。そのため、同氏は「がん患者の経済的な自立を促すことはQOLの向上につながるため、就労支援が大切」と話した。

 転移・再発乳がん患者に対し、同氏らが実践しているのがACPだ。同氏によると、ACPとは「将来の病状の経過に備えて、患者にはさまざまな価値感がある中で、どんな人生を生き、どんなことを大切にしていて、何を希望しているかを明らかにし、家族や代理決定者、医療従事者と共有するプロセス」のことである。緩和ケアなどで導入が進められているという。

 同氏らがACPを行うのは、「患者が納得して、治療を全うするため」だ。全ての希望がかなえられるわけではないが、対話を重ね、医療者が共感し理解を示すことで、患者が現実を受け止め、患者にとって最善と思われる方向を一緒に目指していくことを目標としている。

 2016年6月の導入から2017年12月までに、同科で治療中の転移・再発乳がん患者のうち、診療において必要と判断され、ACPが行われたのは118例だった。年齢中央値は57歳(22~89歳)。自記式のアンケートに記入後、看護師が個室で約30分の面談を行っている。

 アンケートは15問の設問と自由記載欄で構成され、所要時間は10分。質問は意識・関心の対象を問う3問、治療や副作用、余命などについてどこまで知りたいかを問う3問、延命効果が少しでもあれば治療を受けたいかなど、治療に対する積極性を問う3問、自分の思いを医療従事者に話せているかを問う5問、緩和治療の導入を問う1問から成る。

 就労に関する回答では、「治療のことで気になっていること、心配していること」として43例(36.4%)が「治療費」を挙げた。「日常生活の中で気になっていること、心配していること」では29例(24.6%)が「仕事」を、「今後最も大切にしていきたいこと」では19例(16.1%)が「仕事」と答えた()。

図.就労に関する回答結果(118例)

(小林心氏提供)

エビデンスの構築などが今後の課題

 小林氏は、「今後最も大切にしていきたいこと」で「仕事」と答えた患者に対し、ACPを治療戦略に役立てた事例を紹介した。症例は、ホルモン受容体陽性HER2陰性リンパ節転移陽性の左乳がんで20歳代の女性。術後化学療法は拒否したため、内分泌療法(タモシキフェン+リュープロレリン)のみを行っていたが、術後2年目に多発肺転移と縦隔リンパ節転移を認めた。

 患者はACPで、「治療のことで気になっていること、心配していること」は「治療の効果、副作用の種類」、「日常生活の中で気になっていること、心配していること」は「仕事」、「今後最も大切にしたいこと」は「仕事、家族・友人と過ごすこと」と回答した。

 治療の選択においては、タモキシフェン内服中の再発で無病期間が2年であること、多発内臓転移があることから化学療法を勧めたい医師と、仕事を続けたい、仕事に支障を来す抗がん薬の投与は受けたくないとする患者で一致しない部分が大きかった。患者の仕事は細かい手作業で、仕事が生きがいであり、「余命は短くなってもよいので好きなことをして生きたい。家族もそれを支持している」と明確な意思を持っていた。

 話し合いを重ねた結果、フルベストラント+パルボシクリブ+リュープロレリンを選択することとなった。骨髄抑制の他に副作用はなく、現在も治療を継続中で、就労は問題なくできているという。

 ACPは治療戦略の構築に役立つ一方、課題もある。1つはエビデンスの構築で、ACPにより予後の改善や患者満足度の向上が得られるかなどを明示していく必要がある。また同院では、ACPをシステマチックに行う体制を取っておらず、実践の有無は主治医の判断などに任されている。今後、全例に行われるようになった場合、自分で決定することを苦痛と感じる患者がいる点などにも配慮が必要となる。

 医師はエビデンスに基づいた治療選択肢をまず提示するが、患者の状況に配慮した最適な治療選択を考慮する必要がある。就労に関して、同氏は「まず患者の就労希望に気づくこと、聞き出すことが大切」と述べ、その上で予測される効果・副作用を把握し、shared decision making(共有意思決定)に役立てることが望ましいとした。

(JSMO 2018取材班)

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