【第1回】BRCA1/2遺伝子検査
診療報酬は原価の半額、約20万円の赤字に?!

技術料としての保険収載

 遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の生殖細胞系列遺伝子変異であるBRCA1/2遺伝子変異※1を検査するためのコンパニオン診断プログラムである「BRACAnalysis 診断システム」が2018年6月1日に保険収載された。この診断システムは、もともと米国のMyriad Genetic Laboratories社(以下、Myriad社)が開発したものであり、PARP阻害薬であるオラパリブ(商品名リムパーザ)の適応を判定するためのコンパニオン診断プログラムと位置付けられ、日本ではアストラゼネカ社がMyriad社との業務提携により製造販売承認を取得している。

 今回、「BRACAnalysis 診断システム」は特定保険医療材料ではなく、区分番号「D004-2」悪性腫瘍遺伝子検査の新規技術料として保険収載された。技術料としての保険収載に当たっては、これまでの慣例にのっとり、“現存する技術料の積み上げ=準用技術料”として計上されるが、今回は診療報酬の項目のうち「D006-2 造血器悪性腫瘍遺伝子検査」2,100点と「D006-4」遺伝学的検査の「3 処理が極めて複雑なもの」8,000点が準用された。その留意事項通知には「BRACAnalysis診断システムは、区分番号『D006-2』造血器遺伝子検査の所定点数2回分、区分番号『D006-4』遺伝子検査『3』処理が極めて複雑なものの所定点数2回分を合算した点数を準用して算定できる」とされており、2,100点×2+8,000点×2の計2万200点(20万2,000円)で保険収載された。

 申請時に提出された「準用希望技術料の積算内訳(アストラゼネカ社)」を見てみると、BRCA1およびBRCA2ともに、「D004-2  悪性腫瘍組織検査 1. 悪性腫瘍遺伝子検査」の「(ヌ) BRAF遺伝子検査(6,520点)+「N005-2 ALK融合遺伝子標本作製(6,520点)」+「D006-5 染色体検査(分染法加算を含む)(3,028点)」に加えて、“データの解釈”として「D026  検体検査判断料の「3. (ニ)検体検査管理加算Ⅳ(500点)」+「N000 病理組織標本作製(860点)」+「N006 病理診断料」の「1. 組織診断料(450点)」を合算して、1万7,878点での要望であった。しかし、積算内訳を見てみると、全血のPCR法による検査であるにもかかわらず、「第13部病理診断」の保険点数や悪性黒色腫のBRAFとALK融合遺伝子を同時準用したりと、実勢価格に近付けるためにかなり苦しい準用技術料の積み上げ要望となっている。

病院の“持ち出し”の事態は回避に

 ちなみにBRACAnalysis診断システムの実勢価格は、検査がMyriad社でしか実施できないため、日本から検体を米国に空輸する必要があり、輸送費を含め実質的なコストは約40万円に上っていた。

 各国のBRACAnalysis診断システムの実勢価格を見てみても、米国が2,948.84ドル(1米ドル=112円換算で33万270円)、英が2,238ポンド(1英ポンド=145円換算で32万4,510円)、ドイツが3,306.55ユーロ(1ユーロ=128円換算で42万3,238円)であり、日本は最も低い報酬での保険収載になっている。

 ただし今回の保険収載を受けて、日本の大手衛生検査所各社は保険点数2万200点での検査受託を開始しており、保険点数上、低評価のために病院が持ち出しで検査しなくてはならないという事態は回避されている。

検査に要する医療費は約20億円

 さて、厚生労働省から発出された診療報酬上の留意事項通知には、「ア.転移性又は再発乳癌患者の全血を検体とし、PCR法等により、抗悪性腫瘍剤による治療法の選択を目的として、BRCA1遺伝子及びBRCA2遺伝子の生殖細胞系列の変異の評価を行った場合に限り算定する」「イ.本検査は、化学療法の経験を5年以上有する常勤医師又は乳腺外来の専門的な研修の経験を5年以上有する常勤医師が1名以上配置されている保険医療機関で実施すること」「ウ.本検査は、遺伝カウンセリング加算の施設基準に係る届出を行っている保険医療機関で実施すること。ただし、遺伝カウンセリング加算の施設基準に係る届出を行っている保険医療機関との連携体制を有し、当該届出を行っている保険医療機関において必要なカウンセリングを実施できる体制が整備されている場合はこの限りではない」とされており、遺伝カウンセリングが必要なことが明記されている。

 また、「ア.」の抗悪性腫瘍剤とはオラパリブを指しており、「OlympiAD試験」※2の結果が根拠として引用されている。日本では、使用目的に合致した適応対象となる推定患者は年間約9,000人といわれており、検査には約20億円の医療費が必要となる。

前立腺がんなどへの保険適応拡大も期待

 なお米国では、BRCA遺伝子変異陽性患者のオラパリブによる化学予防(変異陽性患者では発症前からオラパリブを投薬)に対して、公的保険であるメディケアから保険支援がなされている。

 また、今回は乳がんでの保険収載となったが、BRCA遺伝子の変異例は卵巣がんはもちろん、膵がんおよび前立腺がんでも発がんリスクが高まることが報告されている。特に前立腺がんでは、高齢期に発症する比較的予後が良いものと異なり、BRCA遺伝子変異例では若年で発症し、アグレッシブに進行するD2がん(初発時に既に骨転移として発見)が多いことが指摘されており、保険適応拡大が期待されるところである。

※1BRCA遺伝子は加齢や環境要因への曝露によって障害を受けたDNAを修復する蛋白を合成する。BRCA遺伝子に変異があるとDNAの損傷が修復できず、それらが蓄積することで発がんにつながるとされる

※2標準的な抗がん薬治療が終了したBRCA遺伝子変異陽性の転移・再発乳がん患者に対し、オラパリブと他の抗がん薬を用いて無増悪生存期間(PFS)を比較した臨床試験。PFS中央値は、他の抗がん薬使用群の4.2か月に対し、オラパリブ使用群では7.0か月(ハザード比0.58)と有意な延長が認められた(N Engl J Med 2017; 377: 523-533

佐々木 毅(ささき たけし)

1989年、秋田大学医学部卒業後、東京大学病理学教室に入局。横浜市立大学病院などの勤務を経て、2013年から東京大学病院で勤務。2018年6月より現職。同大学病院ゲノム病理標準化センター/地域連携推進・遠隔病理診断センターセンター長、同大学(全学部横断)知能社会国際卓越大学院医療系人工知能開発担当を兼務。日本病理学会理事・社会保険委員長、日本乳癌学会保険診療委員会委員、外科保険連合会および内科保険連合会検査委員会委員なども務める。

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