【第1回】妊娠期がんの疫学・臨床像

 読者の皆さん、はじめまして。

今月から「妊娠とがん」というテーマで連載をさせていただくことになりました。この連載では、妊娠合併悪性腫瘍(妊娠期がん)に始まり、がん患者における妊孕性温存、がん治療後の妊娠など、「妊娠とがん」について幅広くお伝えしていきたいと思います。

腫瘍領域の先生方は、国家試験、初期研修医以来、「妊娠」という産科領域に関わることがなく、なんとなく苦手意識を持っている方も少なからずいらっしゃると思います。本連載では、筆者が腫瘍内科医の目線で可能な限り分かりやすく解説していきたいと思います。

第1回目となる今回は、妊娠期がんの疫学・臨床像について概説します。

1.日本人女性の平均第一子出産年齢は、ついに30歳を超過!

国際保健学的に、女性では15~49歳を妊娠可能年齢(リプロダクティブエイジ)と呼びます。発展途上国では、19歳未満で出産(若年出産)する女性が年間1,700万人もいるといわれ、世界保健機関(WHO)をはじめ、さまざまな団体がその予防や対策に奮闘しています。
一方、日本を含めた先進国で問題となっているのが、女性の晩産化です。

図1はわが国の出生順位別に見た父母の平均年齢の推移になります。筆者が出生した1970年代は、女性の平均第一子出産年齢は約25歳であったのに対し、2016年には30.7歳まで上昇していることが分かります。この30歳という年齢は、1970年代では女性が第三子を出産する年齢でした。ところが現在は、その年齢で初めて児をもうける女性が一般的ということになります。

図1.出生順位別に見た父母の平均年齢の推移

(厚生労働省「平成29年 我が国の人口動態」を基に編集部作成)

 また、2015年の1年間に高齢出産(35歳以上)した女性の割合は、全体の約28%に及びます〔厚生労働省「平成27 年人口動態統計月報年計(概数)」より算出〕。つまり、現在は妊婦の約3分の1が35歳以上の高齢出産であるということになります。

このような日本人女性の晩産傾向は、増加の一途をたどっています。その背景には、女性の社会進出だけでなく、生殖補助医療の進展により、比較的高齢でも挙児を望めるようになったということも多分に関係しています。(かくいう筆者も、現在30歳代後半で第二子妊娠中であり、絶賛晩産化に貢献中であります)

2.30歳代、40歳代は女性特有のがん発症リスクが増える年代

妊娠・出産を含め、さまざまなライフイベントが起こる女性の30歳代、40歳代は、同時に女性特有のがんの発症リスクが増える年代でもあります。

図2は、わが国での乳がん、子宮頸がん(上皮内がんを含む)の発症率を示したものです。乳がんは30歳代後半から急激に発症頻度が高まり、48歳ごろにピークを迎えます。一方、子宮頸がんの発症ピークは乳がんよりさらに早く、30歳代半ばでピークを迎えます。

図2.年齢別に見た乳がん・子宮頸がんの発症率

(がん研究振興財団「がんの統計 2012」を基に編集部作成)

 30歳で第三子を出産していた1970年代とは違い、現在は30歳代、40歳代で妊娠・出産する女性が増えています。つまり現代女性においては、妊娠を試みる年代と、女性特有のがん発症が増える年代が一致するというわけです。

そのため、妊娠合併悪性腫瘍(以下、妊娠期がん)の頻度は年々増えてきており、欧米のデータでは1,000~1,500人の妊婦に1人の割合でなんらかのがんを発症しているといわれています1~3)

3.妊娠中に見つかるがんの種類と予後

残念ながら、日本では妊娠期がんに関するデータベースはなく、わが国における妊娠期がんの発症頻度や合併するがんの種類に関する正確なデータはありません。

米国のデータに基づくと、妊娠中に見つかるがんとして最も多いのは乳がんであり、次いで悪性黒色腫、子宮頸がん、血液がん(リンパ腫、白血病)、卵巣がん、甲状腺がんといわれています()。

表.がん種別に見た妊娠期がんの発症頻度

Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol 2016; 33: 2-18

 妊娠期がんの予後に関しては、年齢などの背景因子を調整した妊娠期以外のがんと変わらないとの報告があります4)。ただし、妊娠期がん自体の発症数が少なく、解析されている症例数も限られていることから、十分に信頼性の高いデータとはいえません。現在、海外では妊娠期がんの登録事業や前向きコホート研究に取り組む団体も存在し、今後はより信頼性の高いデータが出てくることが期待されます。

4.妊娠期がんの診断は遅れやすい!

残念なことに、妊娠期がんの診断は一般的に遅れがちであるといわれています。

というのも、嘔気や嘔吐、乳房の変化、腹痛、貧血によるふらつき、息切れ、倦怠感など、がんによって起こる症状の多くが妊娠時に生じる症状と似ているため、患者さん(妊婦さん)自身も、症状や体調の変化を「妊娠のせいかしら?」と思い、あえて医療機関を受診しなかったり、医療者も「妊娠によるものかも」と判断してしまう傾向があるからです。

また、妊娠中は乳房変化や子宮の膨張により診断自体が難しいケースもあります。さらに、妊娠中はヘモグロビン値や血小板数が通常より低く、白血球数は通常より高くなるなど、採血データの正確性が低下すること、放射線を用いた画像診断を行うことに対し医療者側がためらってしまうことなど、幾つかの障壁から診断の遅れが生じているといわれています。

このように、社会現象として日本人女性の晩産化が進行している中で、妊娠期がんはこの先私たち腫瘍医が向き合わなければならない病態の1つになっています。次回は、妊娠期がんをめぐる海外の状況や取り組みについてご紹介したいと思います。

1)Ngu SF, Ngan HY. Chemotherapy in pregnancy. Best Pract Res Clin Obstet Gynaecol 2016; 33: 86-101

2)Pavlidis NA. Coexistence of pregnancy and malignancy. Oncologist 2002; 7: 279-287

3)Williams TJ, Turnbull KE. CARCINOMA IN SITU AND PREGNANCY. Obstet Gynecol 1964; 24: 857-864

4)Stensheim H, Moller B, van Dijk T, Fossa SD. Cause-specific survival for women diagnosed with cancer during pregnancy or lactation: a registry-based cohort study. J Clin Oncol 2009; 27: 45-51

北野 敦子(きたの あつこ)

聖路加国際病院腫瘍内科医師。日本医科大学病院で初期臨床研修を修了後、2007年に聖路加国際病院乳腺外科に入局。同科および同院腫瘍内科、国立がん研究センター中央病院乳腺・腫瘍内科などでの勤務を経て、現職。乳腺専門医。がん薬物療法専門医。主な研究テーマは若年がん、妊娠期がん、がんサバイバーシップ、がん・生殖医療。2010年に若年性乳がん体験者サポートコミュニティ「Pink Ring」を立ち上げ、現在は同団体のチーフメディカルアドバイザーを兼務。2015年に対がん協会リレーフォーライフ「プロジェクト未来」の助成を受け、「母と子二つの命を守る!-妊娠期がんホットライン及び診療ネットワーク構築に関するアクションプラン」という研究を開始し、妊娠期がんの研究に従事している。現在、第二子妊娠中。

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