原発不明がん診療ガイドライン 改訂第2版が発刊

 このたび『原発不明がん診療ガイドライン』(日本臨床腫瘍学会編、以下、GL改訂版)が8年ぶりに改訂された。GL改訂版の刊行に合わせて、第16回日本臨床腫瘍学会(JSMO 2018、7月19~21日)ではガイドライン委員会企画が設けられ、九州大学医学研究院連携病態修復内科学准教授の草場仁志氏が改訂のポイントについて解説した。その一部を紹介する。

エビデンスレベルの高い研究はいまだ乏しい

 原発不明がん(Cancer of Unknown Primary;CUP)は、「十分な検索にもかかわらず原発巣が不明で、組織学的に転移巣と判明している悪性腫瘍」と定義される。国内における正確な罹患率は不明だが、発生頻度は全固形腫瘍の1~5%とされている。数としては少ないものの、ある程度の規模の病院であれば年間に数例は経験する決してまれでないがんである。しかしわが国では従来、臓器別診療体系によるがん治療が行われていたことから、原発不明がんの治療が適切に行われているとは言い難い状況にあった。そこで臓器横断的にがん治療に当たる腫瘍内科医が集まる同学会では、2010年に同GLの初版を刊行した。

 今回は刊行後8年目で初の改訂となったが、草場氏によると、「原発不明がんに関して、エビデンスレベルの高い研究はいまだ乏しい。そのため、改訂版では質の高い日常診療の一助になることを目的に、現在得られる医学情報を整理し、推奨または提案した」という。改訂に当たっては、『Minds診療ガイドライン作成の手引き2004』に従い、エビデンスレベルを4段階で評価した。

いたずらに治療開始を遅らせない、治癒可能群を見逃さない

 原発不明がんは種々の腫瘍が混在した不均一な疾患群で、さまざまな臨床像を取る。予後は生存期間中央値が6~9カ月と不良である。

 剖検により50~70%で原発巣が同定され、原発巣で頻度が高い部位は肺、膵臓、肝・胆道系がんである。一方、剖検でも原発巣が同定されない患者は20~50%存在する。

 こうした原発不明がんの特徴を踏まえ、GL改訂版では、診療の原則として①過剰な検査により治療開始を遅らせない(原発巣探索の目安は1カ月以内)②治癒可能な患者群、予後良好な患者群を見逃さない③臨床的にあるがん種からの転移を強く疑えば、そのがん種に基づく治療を行う―の3点が挙げられている。

 初期に行うべき検査としては、近年広く用いられているFDG-PETおよびPET-CTに関する記載が新たに加わった。

 また病理診断において、通常のHE染色標本のみで組織型決定や原発巣の推定が困難な場合は免疫組織染色が有用となる。免疫組織染色については、臓器特異性の高い分子マーカーが近年多数見つかり、日常診療に応用されていることから、それらの分子マーカーについての記載が加えられた。

 草場氏は「これらの初期に行うべき検査を施行し、それでもなお原発巣が同定できない場合が”真の原発不明がん”となる」と説明した。

予後不良群では診断時からBSCへの移行の検討を

 原発不明がんの治療については、予後良好群ではそれぞれ決められた治療を行うが、予後不良群では化学療法が施行されることが多い。これまで、原発不明がんの予後不良群を対象に化学療法の有用性を検証した大規模ランダム化比較試験はないため、標準治療は確立されていない。しかし同ガイドラインでは、臨床的に有用性の高い治療法を提案するため、クリニカルクエスチョン「一次治療としてどのような化学療法レジメンが推奨されるか?」を設定。GL改訂版では「2000年以降に報告された原発不明がん予後不良例の一次治療レジメンの成績」の表などが追加された。

 草場氏は「予後不良群では化学療法について導入の意義さえ確立されていないため、診断時からベストサポーティケア(BSC)の選択を検討することを推奨する」と指摘。GL改訂版でも、予後良好群以外の原発不明がんでは、診断時からBSCへの移行を考えるべきであることを推奨している(推奨度:強、エビデンスレベル:C)点を報告した。予後不良因子としては、全身状態(PS)が2以上、肝転移、乳酸脱水素酵素(LDH)上昇、アルブミン低下などが挙げられているという。

臨床医と病理医の十分な情報交換が重要

 さらにGL改訂版では、近年のゲノム医療や遺伝子プロファイリングの探索法の目覚ましい進歩を踏まえて、遺伝子・染色体の検査と治療に関する記載が変更、追加された。

 草場氏は、原発不明がんの原発巣同定に最も重要な遺伝子・染色体検査として、「ヒトパピローマウイルス(HPV)感染のサロゲートマーカーであるP16の免疫染色」と「エプスタイン・バーウイルス(EBV)」の検出を挙げた。

 HPV DNAは頭頸部扁平上皮がんの25%で検出され、その90%が16型HPVで、特に中咽頭がんで検出頻度が高い(35~55%)。一方、EBER(Epstein-Barr early ribonucleoprotein)オリゴヌクレオチドプローブを用いたISH(in situ hybridization)にて、EBERは上咽頭がんの約70%で検出される。そのため、2017年のUICC新分類(第8版)では、原発不明・頭頸部がんでHPV陽性あるいはP16免疫染色陽性の場合はHPV関連中咽頭がんとして、またEBER-ISH陽性の場合は上咽頭がんとして分類されることとなり、P16免疫染色およびEBER-ISHは必須の検査となった。GL改訂版でも、両検査を推奨度:強、エビデンスレベル:Bで推奨している。

 また、遺伝子発現プロファイルに沿った治療の有用性については、現状ではエビデンスが蓄積されていないため、GL改訂版では「現時点では臨床試験として実施されるべきものであり、行わないことを推奨する」(推奨度:弱、エビデンスレベル:C)とした。

 最後に、同氏は「原発不明がんは日常でも遭遇する可能性があり、注意深い問診と診察が重要。診断においては、臨床医と病理医の十分な情報交換が重要となる。今後、診断方法のさらなる向上と治療法の確立が求められる」とまとめた。

(JSMO 2018取材班)

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