虫垂腺がん、大腸がんとは異なる遺伝子発現特性

組織型により治療方針を選択すべき

 虫垂腺がんは非常にまれであり、その希少性が故、大腸がんに準じて治療が行われている。しかし、その遺伝子発現特性は大腸がんとはかなり異なるようだ。米・University of Southern Calfornia Norris Comprehensive Cancer Center/熊本大学消化器外科の徳永竜馬氏は、虫垂腺がんの分子学的特性について検討した結果を米国臨床腫瘍学会(ASCO 2018、6月1~5日、シカゴ)で報告した。虫垂腺がんは組織型によって遺伝子の発現特性が異なり、特徴的なGNAS遺伝子変異を有することも示された。

虫垂腺がんの遺伝子発現特性を大腸がんの右側・左側と比較

 虫垂腺がんの自然史と予後は、大腸の他の部位に発生する腺がんとは異なる。大腸がんと比べて虫垂腺がんでは腹膜播種が多く、組織型により予後に差があるものの、遺伝子の発現特性については十分に解明されていない。一方、大腸がんでは遺伝子の発現特性やエピジェネティクスのプロファイリングから、異なる転帰を示す遺伝子表現型が示唆されている。

 そのため、徳永氏らは虫垂腺がんの遺伝子発現の特性について、右側および左側大腸がんと比較検討した。

大腸がんではまれなGNAS遺伝子変異が高頻度に認められる

 2015年4月~18年1月に、虫垂腺がん患者183例から183点の標本(内訳は腹膜偽粘液腫66点、粘液腺がん44点、印環細胞がん27点、典型的な腺がん46点)を採取した。同期間に大腸がん患者2,074例から2,074点の標本(右側大腸がん994点、左側大腸がん1,080点)を採取した。これらの標本を用いて、592の遺伝子パネルについて次世代シークエンシング(NGS)を実施した。マイクロサテライト不安定性(MSI)と腫瘍遺伝子異常総量(TML) の解析はNGSで行い、PD-L1の発現量は免疫組織化学染色法(IHC)で判定した。

 虫垂腺がん患者は、右側大腸がんと比べ若年であり(P<0.001)、左側大腸がんと比べ女性が多かった (P=0.021)。またサンプル採取場所は、遠隔転移巣からの採取が右側大腸がん・左側大腸がんよりも虫垂腺がんで多かった (ともにP<0.001)。

 解析の結果、虫垂腺がんで変異の頻度が高かった遺伝子は、KRAS(55%)、TP53(40%)、GNAS(31%)、SMAD4(16%)、APC(10%)、ARID1A(8%)、RNF43(7%)、PIK3CA(6%)、BRAF(5%)などであった()。右側および左側大腸がんと比べ、虫垂腺がんで遺伝子変異の頻度が有意に高かったのは、GNAS(ともにP<0.001)、SMAD4(右側大腸がんP=0.042、左側大腸がん P=0.029)であった。遺伝子変異の頻度が有意に低かったのは、TP53(ともにP<0.001)、APC (ともにP<0.001)、PIK3CA(ともにP<0.001)、FBXW7(P<0.002、P=0.015)、NRAS(P=0.048、P=0.004)、AMER1(P<0.001、P=0.024)であった。

表.NGSによる遺伝子変異の頻度

(徳永竜馬氏提供)

 さらに、虫垂腺がんの組織型により、遺伝子変異の頻度が異なることも示された。典型的な腺がんと比べ、腹膜偽粘液腫ではKRAS(74%)とGNAS(63%)の頻度が高く、TP53(23%)、APC(2%)、PIC3CA(2%)の頻度は低く、BRAFの変異は認められなかった。粘液腺がんにおいてもKRAS(64%)およびGNAS(25%)変異の頻度が高かった。しかし、印環細胞がんではKRAS(15%)、GNAS(4%)、TP53(33%)変異の頻度が低く、PIK3CAAPCの変異は認めなかった。

 免疫学的なプロファイルについては、虫垂腺がんは左側大腸がんと類似し、右側大腸がんとは異なることが示された。虫垂腺がんでは、MSI-highが2.2%、TML-highが2.2%、PD-L1の発現が2.8%(いずれかのマーカー陽性率は5.1%)しか認められなかった。右側大腸がんではそれぞれ14.5%、14.9%、6.7%で見られ(いずれかのマーカー陽性率は19.8%)、MSI-highとTML-highの陽性率には虫垂腺がんと有意差を認めた(いずれもP<0.001)。左側大腸がんでは3.4%、4.6%、2.7%であった (いずれかのマーカー陽性率は6.7%)。腹膜偽粘液腫においてはMSI-highおよびTML-highは認められなかったものの、典型的な腺がんでは比較的高頻度に認められた (いずれかのマーカー陽性率は11.4%)

 徳永氏は「虫垂腺がんの遺伝子の発現特性は大腸がんとは異なり、組織型においても相違が見られる。虫垂腺がん患者の治療に当たっては、このような遺伝子の発現特性を理解し、個別化治療を行っていく必要がある」と指摘した。虫垂腺がんは希少であるが故に、こうした遺伝学的特性に関する多数例での報告は貴重である。今回の報告は、虫垂腺がんにおける新たな治療戦略の構築に貢献すると考えられる。

編集部

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