分子標的薬による心血管障害、予防と対策は?

減量や投与中止も視野に

 慢性骨髄性白血病(CML)の予後は、BCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬(ABL-TKI)の登場により大きく改善したが、長期投与による心血管障害などの有害事象が大きな問題となってきた。同薬による心血管障害の予防と対策について、佐賀大学血液・呼吸器・腫瘍内科教授の木村晋也氏が第16回日本臨床腫瘍学会(7月19~21日、神戸市)で解説した。

 

第三世代まで出そろったABL-TKI

 CMLの治療は、2001年に登場したABL-TKIのイマチニブにより、劇的に変化した。現在では、CMLで死亡することはほぼなくなり、10年生存率は90%を超えるようになった。

 その後、イマチニブ耐性となったCMLに対する第二世代のABL-TKIとして、ダサチニブ、ニロチニブ、ボスチニブが登場している。さらに日本で開発されたbafetinibの第I相試験が欧米で木村氏らによって行われ、有望な結果が示されたが、開発は現在中断している。

 第二世代のABL-TKIの課題は、T315I点突然変異に無効なことである。そのため、ABL-T315Iへの結合が可能な第三世代のABL-TKIとして、ポナチニブが開発された。

第二・三世代のTKIで心血管障害が増加

 第一・二世代のABL-TKIは、アデノシン三リン酸(ATP)結合様式により、ダサチニブとボスチニブはType Ⅰ、イマチニブとニロチニブはType Ⅱに分けられる。イマチニブとニロチニブは、BCR-ABL、c-KIT、血小板由来成長因子受容体(PDGFR)など、7種程度のキナーゼを阻害し、ダサチニブはさらにSRCファミリーなどを含む約50種を阻害する。一方、ボスチニブは約20種のキナーゼを阻害するが、c-KITとPDGFRは阻害しない。

 第二世代のABL-TKIでは、PDGFRを長期に阻害することにより、心筋障害や心不全などが起こることが報告されている。

 第Ⅲ相のENESTnd試験では、5年間の追跡において、グレード3/4の心血管イベントの発生率は、イマチニブで1.8%、ニロチニブ300mgの1日2回の投与(BID)で4.7%、400mgのBIDで8.7%であることが示された(Leukemia 2016; 30: 1044-1054)。

 第Ⅲ相のDASISION試験でも同様の傾向が示され、グレード3/4の虚血性イベントの発生率は、イマチニブで1%、ダサチニブで3%となった(J Clin Oncol 2016; 34: 2333-2340)。

 これらの結果について、木村氏は「第二世代のABL-TKIは点突然変異を多く抑え、親和性も高く、白血病への効果は高いが、その裏返しとして心血管系の副作用が増えてしまった」と説明した。

 さらに心血管障害が発生する確率が高いとされるのが、第三世代のポナチニブだ。発売後に使用した患者において重篤な心血管障害が増加し、米国では約1カ月間販売が停止され、新たな安全対策が検討されることとなった。ポナチニブも非常に多くの種類のキナーゼを阻害するとされ、血管内皮細胞成長因子受容体(VEGFR)も阻害するため、心血管障害が起こりやすいと推測されている。

 ABL-TKIのメタ解析では、心血管系への影響はイマチニブとボスチニブが少ない可能性が示されている。血管閉塞性イベントのオッズ比は、ダサチニブ、ニロチニブ、ポナチニブはいずれも3.4以上となったが、PDGFRとc-KITを阻害しないボスチニブでは2.77であった(JAMA Oncol 2016; 2: 625-632)。

 ただし、ボスチニブもVEGFRを阻害することから、同氏は「ABL-TKIによる心血管障害は、複数の阻害効果によるものと考えられる。CMLによる死亡が抑えられても、心血管障害による死亡も報告されており、慎重に取り組んでいく必要がある」と述べた。

心血管障害を防ぐ方法を検討、減量や投与中止も

 心血管障害の予防として、米国で推奨されている方法の1つが足関節上腕血圧比(Ankle-brachial index;ABI)だ()。上腕と足関節の血圧を測定し、ABIで心血管障害が疑われたら、心エコー検査や血管造影法などの次の検査に進む。ABIの測定は外来でも実施可能である。

図.足関節上腕血圧比(ABI)

(木村晋也氏提供)

 用量を減量する検討も始まっている。ポナチニブによる動脈血栓塞栓症のリスクは用量依存性であり、用量が1日平均15mg下がるごとに血管閉塞性事象の発現率が33%減少することが示されている(JE Cortes, et al. ASH2013 Abstract No.650, EHA2014 Abstract No.S679)。ポナチニブ15mgでは、有効血中濃度を数時間しか維持できない。しかし木村氏らが報告しているように、TKIは投与後2時間、有効血中濃度を超えれば不可逆的に白血病細胞の増殖を抑制するため(Blood 2007;109:306-314)、ポナチニブも現在の用量(45mg/日)よりも少ない15mgで十分な可能性がある。ポナチニブの至適用量を探索するため、国際的な第Ⅱ相のOPTIC試験が現在進行中である。

 さらに、ABL-TKIの投与を中止できる可能性も出てきた。同氏らは第Ⅱ相のDADI試験から、ダサチニブにより深い分子遺伝学的奏効が1年以上持続した後、44.4%の患者は投与を中止できることを報告している(Lancet Haematology 2015; 2: e528-e535, CLML 2018; 18: 353-360)。この試験は、第二世代のABL-TKIでは世界初の中止試験となった。

 最後に同氏は「TKIの投与を開始する前に危険因子を適切に評価し、慎重に観察していく必要がある。根本的な予防としては、最適な用量を再検討し、可能であれば投与の中止も考えられる」と話した。

(JSMO2018取材班)

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