【解説】未治療非小細胞肺がんへの抗PD-1抗体、単剤か併用か

投与の”順序”という観点からの治療戦略も検討を   


編集部から〕6月1~5日に米国・シカゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO 2018)において発表された、腫瘍細胞のPD-L1の発現割合(Tumor Proportion Score;TPS)が1%以上の進行非小細胞肺がん(NSCLC)に対する初回治療として、免疫チェックポイント阻害薬である抗PD-1抗体ペムブロリズマブ(商品名キイトルーダ)単剤療法の有効性を検証したオープンラベル第Ⅲ相臨床試験KEYNOTE-042の中間解析結果から、化学療法に対する全生存期間(OS)の有意な延長が認められた(関連記事:「キイトルーダ単剤、PD-L1発現1%以上の進行NSCLCの一次治療でOS延長」)。一方で、TPSが1~49%の患者に解析対象を限定した探索的解析では両群のOSに有意差は認められず、無増悪生存期間(PFS)の評価でも両群に差は見られなかった。この結果をどのように解釈すべきか。国立がん研究センター中央病院先端医療科の北野滋久氏に解説してもらった(関連記事:「【解説】抗PD-1抗体+化学療法の意義」、「【解説】未治療肺がんへの免疫療法併用の意義」)。

“PD-L1低発現を含む”未治療例でも有効性が示される

 KEYNOTE-042試験(NCT02220894)において、PD-L1 TPSが1%以上の転移性NSCLC(EGFR遺伝子変異あるいはALK遺伝子転座変異が認められない)では、一次治療としてペムブロリズマブ群がプラチナ系抗がん薬による2剤併用療法(化学療法)群よりも有意にOSを延長したことが報告された。本試験の意義として、未治療の”PD-L1が低発現”の進行NSCLC、すなわち、より多くの進行NSCLCにおいても化学療法よりも概して副作用が少ない免疫療法が第一選択肢となる可能性が示されたことが挙げられる。本試験の解釈は以下に述べるように幾つかの点で疑問が残るが、本試験結果が今後、どの程度実臨床に反映されるのか注目される。

本試験の解釈についての幾つかの疑問点

 本試験は、腫瘍におけるPD-L1TPSが1%以上の症例が登録され、主要評価項目はPD-L1 TPSが50%以上、20%以上、1%以上におけるOSである。登録症例のうち、PD-L1 TPSが50%以上のPD-L1強発現例はペムブロリズマブ群46.9%(299例)、化学療法群47.1%(300例)と、両群とも半数弱に均等に割り付けられている。言い換えれば、半数強の患者がPD-L1 TPSが1~49%であった。注意すべき点として、PD-L1TPSが1%以上での解析においては、PD-L1TPSが50%以上のPD-L1強発現例が半数近く含まれていることが挙げられる。主要評価項目であるPD-L1 TPSが50%以上、20%以上、1%以上の各群のOSは、ペムブロリズマブ群で化学療法群よりも統計学的に有意な延長が認められている。あくまで探索的な解析ではあるので参考データとして扱わないといけないが、PD-L1 TPSが1~49%群、すなわちPD-L1強発現例を除く群での解析においてOSの延長が示されなかったことについては、一定の注意が必要ではなかろうか。

 また、先行して発表されたKEYNOTE-024試験(関連記事:「抗PD-1抗体、肺がん一次治療で奏効」)とは異なり、KEYNOTE-042試験におけるPD-L1 TPSが50%以上のPD-L1強発現例でのOSおよびPFSの生存曲線はともに、化学療法群とぺムブロリズマブ群が途中でクロスしている(交差して上下が逆転している)。そのため、本試験とKEYNOTE-024試験における登録症例の背景の違いについては、今後の検証結果が待たれる。具体的には背景の違いとして、人種差、性、喫煙歴、組織型、転移部位・個数、腫瘍径、免疫状態、(化学療法以外の)前治療、試験登録から実際の投与までの期間など、多数の因子が試験結果にどの程度の影響を及ぼしているのか否かについて、詳細に検討を行う余地があると考えられる。またKEYNOTE-042試験においては、KEYNOTE-024試験とは異なり、クロスオーバーが認められていないことも注意点として挙げられる。KEYNOTE-042試験がデザインされた時代的背景についても考慮が必要であるため、本試験について直接の批判を意図するものではないが、現在はNSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬の有効性が明らかになっているため、今後は免疫チェックポイント阻害薬を含む試験では倫理的な観点から原則としてクロスオーバーが認められるデザインが一般的になると思われる。

免疫チェックポイント阻害薬治療後の化学療法の意義

 従来、大腸がんや乳がんなどのがん種においては、化学療法を投与する順序よりも、使用可能な薬剤を全て使い切ることが生存期間の延長に貢献するものと考えられてきた。興味深いことに、2017年の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2017)において、進行期のNSCLCでは免疫チェックポイント阻害薬を先行投与する方が、後治療の化学療法の治療効果が高い傾向にあることを示唆する複数の発表がなされた。KEYNOTE-024試験の長期観察経過の成績が示され(関連記事:「キイトルーダ、化学療法の2倍超のOS達成」)、新たな評価指標である「PFS2」(※)により、免疫チェックポイント阻害薬の一次治療での有効性が示された。その他の3つの演題(Abst#9082, 9083, 9084. ASCO 2017)においても、進行NSCLCに対して、免疫チェックポイント阻害薬を先行して投与した症例群の二次治療以降では、後治療の化学療法の奏効率が高い傾向を示したことが報告された。現時点では原因となる明確な機序は示されていないものの、免疫チェックポイント阻害薬を先に投与することで体内の免疫環境に変化が生じ、他の治療法に切り替えても、その免疫環境が維持されている可能性があるのではないかと考えられている。今後、免疫療法が標準治療に含まれるがん種では、従来の抗がん薬や分子標的薬との投与の「順序」という観点からも治療戦略を検討していく必要があろう()。

図.投与の”順序”という観点からの治療戦略

(北野滋久氏提供)

バイオマーカーによる治療選択を検証する時代へ

 現在、未治療の進行NSCLCに対する治療の開発は、併用療法に主軸が移っており、化学療法と免疫療法併用(KEYNOTE-189試験、関連記事:「キイトルーダ、肺がんの一次治療で新展開」)、化学療法と免疫療法と抗血管内皮細胞増殖因子(VEGF)薬併用(IMpower150試験、関連記事:「抗PD-L1抗体+抗VEGF薬+化学療法でOS延長」)、免疫チェックポイント阻害薬同士の併用(CheckMate-227試験)など、熾烈な競争が繰り広げられている。その中で、前述のように結果の解釈には幾つかの疑問点は残るものの、初回治療として免疫チェックポイント阻害薬単独投与の選択の可能性を広げる可能性があることを示したKEYNOTE-042試験の意義は大きいと考える。 現在、NSCLCにおける免疫チェックポイント阻害薬単剤、併用療法のバイオマーカーとしては、①腫瘍におけるPD-L1の発現割合(免疫染色)腫瘍遺伝子変異量 (Tumor Mutation Burden; TMB)―がコンパニオン診断薬の開発としては先行しているが、それだけでは治療選択の根拠としては理論上不十分である。なぜなら、腫瘍におけるPD-L1の発現割合だけでは、宿主の抗腫瘍免疫反応とは関係なく腫瘍からPD-L1が発現している、いわゆるintrinsic induction例が含まれてしまう。また、ネオアンチゲンの供給源となりうるTMBについては、NSCLCでは有望と考えられるが、カットオフ値の決定については今後も各測定装置間でのデータの違いの検証、人種差、対象疾患・病期、介入する治療ごとなど、各種のバリデーションが必要であろう。本稿では割愛するが、他のバイオマーカーも幾つかの成績が後ろ向き解析において報告されつつあり、今後はこれらのマーカーを加えて治療選択を行っていくことが期待される。バイオマーカーによる治療選択、個別化医療への期待が高まる。

  • (※) progression free survival 2: 2012年に欧州医薬品庁(EMA)により定義された概念で、一次治療開始時(ランダム化)から二次治療後の2回目の病勢進行(PD)を認めるまで、あるいは死亡までの期間を指す

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