悪性胸膜中皮腫に”新薬”ニボルマブ

 国内の推定患者数が2,000人とされる悪性胸膜中皮腫では、初回薬物療法後の有効な治療法がなく、新たな薬剤の登場が切望されていた。そうした中、今年(2018年)8月21日に免疫チェックポイント阻害薬ニボルマブ(商品名オプジーボ)が悪性胸膜中皮腫への適応拡大を取得した。労働者健康安全機構アスベスト疾患研究・研修センター(岡山市)所長で岡山労災病院アスベスト疾患ブロックセンター長の岸本卓巳氏は、9月14日に東京都で開催された小野薬品とブリストル・マイヤーズ スクイブの共催によるプレスミナーで講演し、「これまで一次治療後に再発した患者には治療法がなかったが、再発後の選択肢としてニボルマブが登場した意義は大変大きい」と述べた。

過去20年間で死亡例が3倍に増加

 悪性胸膜中皮腫は胸腔内面を覆う一層の中皮細胞に発生する難治性腫瘍である。発症はアスベスト(石綿)の吸入と密接に関連しており、アスベストの曝露から30~50年という長い期間を経て発症することから、岸本氏は「わが国ではアスベストの使用は禁止されたが、今後20~30年間は中皮腫による死亡者は増加する傾向にある」と説明した。実際、1995年以降の死亡者数の推移を見ると、約20年間で3倍になっており、現在も増加傾向にある(図1)。

図1.国内の中皮腫による年間死亡者の推移

http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/tokusyu/chuuhisyu16/dl/chuuhisyu.pdf

 悪性胸膜中皮腫は早期発見が難しく、有効な治療法は限られている。治療法として外科的切除術、抗がん薬を用いた化学療法、放射線治療(ただし、放射線照射のみでは効果はない)などがあり、これらの治療法を組み合わせることで5年以上生存する症例も認められるという。
 薬物治療では、一次治療としてペメトレキセドとシスプラチンの併用療法(PC療法)が行われるが、同療法に不応または不耐となった患者に対する標準的な治療法はなかった。2007年1月のペメトレキセドの承認以降、11年間新薬は登場しておらず、同氏は「これまでさまざまな薬剤の治験に参加してきたが、いずれの薬剤も良い結果を出すことができなかった」と、新薬開発の難しさを指摘した。

予後不良の「肉腫型」は既存治療で効果望めず

 治療法別の全生存期間(OS、2003~08年のデータ)を見ると、OS中央値は、手術で8.8カ月、化学療法で9.4カ月、手術・化学療法なしで4.3カ月だが、手術と化学療法を併用すると15.1カ月に延長する。組織型で見た場合、全体の6割を占める上皮型の10.2カ月に対し、二相型で8.0カ月、15%を占める肉腫型では4.2カ月。岸本氏によると、「2007年からPC療法が用いられるようになったことで、当院における最近の臨床データでは、OS中央値は上皮型で15カ月、二相型で12カ月、肉腫型で8カ月まで延びている。ただし、上皮型はPC療法がよく効くため治療成績が改善した一方で、肉腫型ではほとんど効果は望めず、お手上げ状態だった」と言う。
 その上で、「当院では300例近くの悪性胸膜中皮腫患者を診ているが、5年間生存したのは5例ほど。他の施設でもほとんど見られない」との現状を示した。

奏効率が29.4%、PFSは6.1カ月と良好な結果

 ニボルマブの国内での承認(適応拡大)申請は、切除不能な進行または転移性の悪性胸膜中皮腫患者34例を対象とした第Ⅱ相多施設共同非盲検非対照試験(ONO-4538-41試験)の結果に基づき行われた。その結果を見ると、主要評価項目である奏効率が29.4%(95%CI 16.8 ~46.2%)だった。詳細を見ると、完全奏効(CR)が0%、部分奏効(PR)が29.4%、安定(SD)が38.2%、進行(PD)が26.5%、評価不能(NE)が5.9%であった()。
 この結果について、岸本氏は「全34例中10例でPRを示したことは画期的だ。これまでにわれわれが参加した悪性胸膜中皮腫の新薬の臨床試験では、SDは経験したが、PRを示した例はほとんどなかった。悪性胸膜中皮腫は進行しなければそれほど予後は悪くないため、SDも奏効例に加えると、ニボルマブを投与した34例のうち23例で効果が得られたことになる」と評価した。

表.ニボルマブの奏効率(ONO-4538-41試験)

〔国内第Ⅱ相試験(ONO-4538-41)試験成績 承認時評価資料〕

 同氏は、ニボルマブが奏効した10例のサブグループ解析結果についても触れ、「注目すべき点は、予後不良とされる肉腫型の66.7%(3例中2例)、二相型の25%(4例中1例)で効果が示されたこと。これまで化学療法は上皮型には効いても、肉腫型や二相型には効かなかったが、今回全ての組織型で奏効が認められたことは画期的だ」と強調した。
 無増悪生存期間(PFS)中央値は6.1カ月で(図2)、同氏は「この疾患は一度進行を始めると、非常に速いスピードで悪化してしまうが、ニボルマブ投与例ではPFSが6.1カ月と非常に良好な結果であった。当院では、これまでこの疾患に対するさまざまな薬剤の治験に参加したが、これほど優れた結果を示した薬剤はない」と述べた。
 ニボルマブの安全性についても報告。重篤な有害事象は32.4%で発現し、このうちグレード3/4は23.5%であった。「有害事象のために投与中止となった患者もいるが、それほど多くはなく、ほとんどは休薬で対応できている。慎重に投与していけば、安全に使用できる薬剤と考えている」と述べた。

図2.ニボルマブの無増悪生存期間(ONO-4538-41試験)

〔国内第Ⅱ相試験(ONO-4538-41)試験成績 承認時評価資料〕

ニボルマブの一次治療、抗CTLA-4抗体との併用療法に期待

 以上を総括し、岸本氏は「これまで悪性胸膜中皮腫の治療に難渋しており、一次治療でPC療法を行った後で再発した場合の絶望感は大きかった。そのため、再発後の治療法としてニボルマブが加わった意義は大変大きいと感じている」と指摘。
 さらに、ニボルマブを用いた新たな治療法を展望。一次治療への応用や、PC療法への上乗せ、術前および術後療法への適応の拡大、抗CTLA-4抗体など作用機序の異なる薬剤との併用療法など、今後の実用化に期待を寄せた。

(小沼 紀子)

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