透析がん患者における抗がん薬治療の実態調査

 維持透析患者に対する抗がん薬治療においては、腎機能が正常な患者とは薬物動態が異なるため、用量や透析のタイミングを慎重に判断する必要がある。しかし、症例数の少なさなどから臨床試験はほとんど行われていないため、適切な投与方法や安全性に関するエビデンスは十分でなく、過去の症例報告を基に投与方法を決定しているのが現状である。そこで、京都大学病院腫瘍内科の船越太郎氏らは、わが国の透析患者における抗がん薬治療の現状を明らかにする目的で実態調査を行い、その結果を第63回日本透析医学会(6月29日~7月1日)で報告した。

プラチナ製剤の投与方法が施設間でばらばら

 船越氏らは、がん診療連携拠点病院を中心とする20施設で、2010年1月~12年12月に新たにがんと診断された維持血液透析患者を対象として、カルテ情報を基に患者背景や治療内容、臨床経過を調査。さらに、がんに対する初回治療として抗がん薬治療を行った患者については、抗がん薬の種類、用量、投薬のタイミング、有害事象の発現率を調べた。

 その結果、初回治療として抗がん薬治療が施行されたのは74例(緩和的化学療法44例)で、そのうち周術期化学療法が施行された30例の原発部位で最も多かったのは乳房(17例)、次いで大腸(6例)、膵臓(3例)、膀胱(3例)、胃(1例)だった。

 使用された抗がん薬は、殺細胞薬ではフルオロピリミジン系薬が最も多く15例〔フルオロウラシル(5-FU)9例、テガフール・ウラシル配合薬(UFT)6例〕、次いでプラチナ製剤が8例(オキサリプラチン4例、シスプラチン2例、カルボプラチン2例)、タキサン製剤が8例(パクリタキセル4例、ドセタキセル4例)、その他10例(ゲムシタビン7例、イリノカテン3例)だった。

 透析患者における抗がん薬の投薬方法について、海外のレビュー(Ann Oncol 2010; 21: 1395-1403ESMO Open 2017; 2: e000167)では、5-FUは標準用量(減量なし)、シスプラチンは標準用量の25~50%、オキサリプラチンは同70%を、いずれも非透析日に投薬することが推奨されている。

 今回の調査における各薬の用量は、フルオロピリミジン系薬では腎不全を理由として5-FUが3例(33%)、UFTが4例(67%)で減量されていた。

 前述のレビューではタキサン製剤も減量不要とされているが、今回の対象では毒性を懸念してほぼ全例で減量されていた。

 プラチナ製剤は施設により投与方法が異なっていた。オキサリプラチンは標準用量の70~100%、シスプラチンは同50~100%と減薬量にばらつきがあり、投薬のタイミングも透析日と非透析日で施設ごとに違いが見られた。

 透析患者に対するプラチナ製剤の投与は、レビューでは減量および非透析日の投与が推奨されていることに加え、『腎障害診療ガイドライン2016』でも、透析患者に対してシスプラチン投与後、薬物除去を目的として透析を行うことは推奨されないと記載されている。その一方で、わが国ではプラチナの蓄積を回避するためプラチナ製剤投与直後に透析を行った症例報告がある。船越氏は、こうした矛盾が施設ごとに投与方法が異なる原因になっていると指摘した上で、「プラチナ製剤の適切な投与方法の確立には、薬物動態研究が必要である」と強調した。

 一方、分子標的治療薬および内分泌療法薬の用量に施設間で差は見られなかった。過去に薬物動態研究が実施されたソラフェニブ、非透析患者においても毒性が出やすいスニチニブは全例で減量されていた一方、その他の薬では減量例はほぼ見られなかった。

抗がん薬治療を受けた透析患者は、がん以外による死亡割合が高い

 有害事象については、一般がん患者の臨床試験と比べ特に頻度が高いものは認められなかったものの、緩和的化学療法を行った44例中3例(6.8%)で治療関連死亡(敗血症1例、突然死2例)が認められ、船越氏は「高い割合であると考えられる」と述べた。

 また、周術期化学療法を行った30例中7例が治療開始後3年以内に死亡しており、うち6例(86%)は感染症や突然死、脳梗塞などがん以外による原因で死亡していた。緩和的化学療法(44例)では3年以内に死亡した28例のうち9例(32%)ががん以外の原因で死亡。透析導入後に抗がん薬治療を受けたがん患者では、がん以外による死亡率が高いことが明らかになった。

 透析患者の年間粗死亡率(1995~2014年)は約10%と一般人口よりも高いことなどを前提とした上で、今回の結果について船越氏は「透析患者は予後が悪いため、抗がん薬治療に当たっては適切な症例選択が必要である」と考察した。

透析患者におけるFOLFOX療法の治療開発へ

 船越氏らは現在、透析患者における適切な抗がん薬治療の開発を進めている。症例数が少ないため、標準治療で用いられる抗がん薬の薬物動態研究を行い、最適なレジメンの確立を目指す。

 まずは5-FUとオキサリプラチンを組み合わせたFOLFOX療法の治療開発に着手。現在進行中の薬物動態研究において、「5-FUについては海外のレビューと同様、標準用量での投与が可能と思われるが、高アンモニア血症を発症する頻度が高い可能性がある。オキサリプラチンについては末梢神経障害や骨髄抑制に注意しながら投与すれば減量は必ずしも必要ではないと考えられ、現在前向き臨床試験を実施中である」と報告した。

 これらの結果を踏まえ、近くFOLFOX療法のfeasibility study(実現可能性試験)を開始する予定。推奨投与方法の確立と、安全性・有効性の評価を行っていくという。

(今手麻衣)

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